幹細胞はそのままで移植治療に用いることもできます。ただ、確保した細胞を組織や器官へと導こうとすれば、放って置いても細胞が勝手に臓器を形成するわけではありません。目指す細胞へ誘導し一定の臓器の形へとデザインしていくためには、幹細胞をどのように増殖させ、分化に誘導するのか、細胞を張り付かせるためにどのような足場を作ればいいのかなどを工学的な側面から手助けしてあげなければなりません。
 生体内において幹細胞をそのままの分化する前の状態でいかに増殖させることができるか、どのようにすれば分化に導くことができるのか、幹細胞と分化したあとの細胞をどのようにして分離できるのかといった研究も工学の果たす役割です。
 また、細胞をさまざまな材料と複合させて生体内で形を作り、機能させるまでの仕組みを作り出し実際の医療へ結びつける研究は組織工学(ティッシュエンジニアリング)と呼ばれます。組織工学の研究としては現在、人体に害がなく体の中で分解することのできるコラーゲンなどの生体内吸収性材料の活用が代表的です。生体内吸収性材料の上に細胞を乗せて増殖させることで、強度を確保することができます。材料を特定の形になるように骨組みを組んで、その上に細胞を増やせば、思ったとおりの形状に導くことも可能です。この技術は実際に皮膚の再生などに使われています(写真)。また、移植にあたって起こる拒絶反応を防ぐため、移植した細胞を包み込む免疫隔離膜や、患者の血液を一時的に体外で循環させるためにブタの肝臓を使った人工肝臓なども開発が試みられています。(下図)
 このように幹細胞分野における遺伝子工学や、細胞を組織、器官に導くための組織工学などがそろって初めて治療へと結びつけることができるのです。

 欧米ではすでに多くの再生医療ビジネスが起こっており、患者への治療に活かされています。日本でもようやく皮膚や骨の再生を目指すベンチャー企業が創業しています。

 
ピッツバーグでの生体組織工学産業の発展
  ピッツバーグの
再生医療関連企業群
企業数 26
市場資本価値(推定) ※ 43億ドル
年間総売上高(推定) 7.74億ドル
※市場資本価値(推定)= Total market capitalization or valuation (estimated)
( Pittsburgh Tissue Engineering Initiative が2000年に行った調査の資料
http://www.pittsburgh-tissue.net/industry/pdf/industry.pdf
をもとに科学技術動向研究センターで作成 )
科学技術政策研究所 科学技術動向研究センター 「再生医学の最近の動向 」より

 実用につなげるための開発、多くの数を生産するための量産化は、患者が安心してかつより安価に治療を受けるために必要な過程です。製品化がなされれば、その後の保守、維持も肝心です。そこには製品に対して責任を持つ企業の力が必要なのです。
 また、研究のさまざまな過程において企業の関わる余地があると同時に、再生医療の研究から派生して事業化につながる種も多く生まれてくることになります。そして、これからの再生医療の可能性を考えた時、その事業機会は確実に広がり市場が創造されていくことになるでしょう。
 
 
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