1998年11月、米国・ウィスコンシン大学のトムソン教授らによって人間のES細胞(Embryonic Stem Cell、胚幹細胞)を取り出すことに成功した(「ES細胞年表」へ)、との論文が米国の科学雑誌「Science」に掲載されました。それまで一般の人にはほとんど知られることのなかったES細胞という言葉が一躍、"市民権"を得るとともに、再生医療が現実味をもって語られるようになったきっかけとなる出来事でもありました。

 ES細胞は人体を形づくるあらゆる細胞にへと変ぼうすることのできるおおもとの細胞であるとともに、変ぼうする前の状態のまま自らをいくらでも分裂させて増やすことができる特性を持っています。そのようなES細胞を手に入れることができるようになったということは同時に、ES細胞を上手に誘導してやれば目的とする必要な細胞、組織、器官を意図的に作り出し、さまざまな治療に生かせる可能性が大いに広がったということを意味します。以来、各国の研究者はES細胞を使った研究に力を注いでいます。日本では昨年秋に文部科学省から「ヒトES細胞に関する樹立と使用に関する指針」が示され、一定の条件のもとでES細胞を利用した研究にゴーサインが出されました。
 ES細胞はそもそもどのような細胞で、どこまで研究が進んでいるのか。胚に由来したES細胞を治療応用に結び付けていくための課題は何か。基礎知識の各論に入る第1回目のテーマとしてES細胞にスポットを当てます。

 
 
1.はじめに2.胚から作り出されるES細胞3.多能性と自己複製能力
4.進む治療への応用研究5.研究における課題6.研究推進に必要な社会との対話