生命の原稿 - DNA

 さてここで、そんなにうまく進化など起きるものだろうか、と思う人もいるのではないでしょうか?少しずつ変化が積み重なって、単純な細胞から複雑で大きな脳をもつヒトが誕生したというけれど、どうやって変化が積み重なるのだろう?
この疑問は、次のように言い換えることができます。生物が自分と同じものを増やしていけるのはどうしてだろうか?変化したら、それが記憶されるのはなぜだろうか?体のつくり方はどこに記憶されているのだろうか?
いくら勉強しても記憶できなければ進歩がないのと同じように、体のつくり方が記憶できなければ、進化も起きないのではないか。

 こんな例を考えてみましょう。あなたは長大な物語をつくりたいと思っています。もちろん1日では完成しないので、毎日少しずつ考えることにしました。ところが、物語が長くなるにつれて、それを憶えておくことができなくなってきました。長い話なので無理もありません。
仕方がないので、考えた話を書きとめていくことにしました。原稿をつくることにしたのです。毎朝、これまでに書いた原稿を最初から読み返し、話の続きを考えます。読み返すと、字が誤っていたり、へんてこな文章が見つかったりするので、その度に修正していきます。こんなことをしているので、1日に1行しか進まないこともしょっちゅうです。もうやめようか、とあなたは思います。しかし、こつこつと進めていれば、いつかはきっと完成するはずだ、そう思いなおしてあなたはまた続きを考え始めます。そして数年後、あなたは立派な物語を完成し、友人を驚かせたのでした。


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 あなたにとって、もっとも大切なのは原稿でした。前日までにつくった話を毎日思い出せるのは、紙に書きとめた原稿があるからです。生物の進化にも、この原稿に当たるものが必要です。ヒトからヒトがきちんと産まれてくるのは、読み返すことのできる「原稿」があるからなのです。この原稿にあたるのが、DNAです。

 DNAは細い鎖のようなもので(直径2ナノメートル:1ナノメートル=0.000000001メートル=10のマイナス9乗メートル)、真核生物では核の中にしまわれています。ヒトの細胞1個には、約2メートルのDNAが入っています。したがって、60兆個ある細胞のすべてのDNAをつなげると、120兆メートル。1200億キロメートルもあることになります。30万キロ/秒の光の速さで、40万秒。4.6日(約111時間)かかる長さです。


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