成体幹細胞と医療

 成体幹細胞が研究されている理由の一つに、そこで得た知識を医療に役立てたいという考えがあります。病気の人から幹細胞を取り出して増やし、必要な細胞に分化させて再びその人の患部に移植すれば、拒絶反応を起こすことなく治療することができます。

 拒絶反応とは、だれもがもっている免疫系によって起こります。免疫系は、外部から入ってくる侵入者(ウイルスや細菌など)から体を守るための「防衛隊」です。免疫系の細胞は、体内で増殖する侵入者をつかまえ、分解するだけでなく、犯人の特徴をつきとめ、その特徴をもった侵入者を一掃する抗体をつくり出します。一度侵入してきた犯人のことは一生忘れることがないので、同じウイルスには二度と冒されることがありません。おたふく風邪(耳下腺炎)や、はしか(麻疹)の予防接種(毒性を失ったウイルスを投与する)はそれを利用しています。

 しかし、この免疫系のために、移植医療は大きな問題を抱えています。他人の細胞は侵入者とみなされ、攻撃の対象にされてしまうからです。せっかく移植した臓器がだめになってしまうのはそのためです。そこで、患者自身からとった細胞を使えれば医療に役立つというわけです。


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 最先端の医療の一例を紹介しましょう。歯槽骨(しそうこつ)は、歯を支える顎(あご)の骨ですが、歯周病がひどくなると、それが溶け始めます。歯は抜け落ちてしまい、食事をとることができなくなってしまいます。病状が軽く、歯槽骨がしっかりしている場合は、この骨に金属を打ち込んで、それを支えに人工の歯を取り付けることができます。しかし、歯槽骨が薄く弱くなっていると、それも不可能です。そこで、患者さんの腸骨(ちょうこつ:骨盤の骨の一つ)から骨髄を採取し、その中の幹細胞を培養して増やし、骨をつくる細胞に分化させたあとで、顎(歯槽骨が溶け出した部分)にもどしてやる医療の研究が進んでいます。これによって顎の骨が再生します。もう間もなく、誰もが受けることのできる一般的な医療になるのではないかと思います。このような医療分野を再生医療と言います。
このように成体幹細胞を使った医療は、今後大変有用なものになるだろうと思われます。
成体幹細胞は、限られた種類の細胞にしか分化できませんが、患者自身の細胞なので、拒絶反応を受けないという大きな利点をもっています。