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「聞き手」−今年4月、中辻先生が申請していたヒトES細胞の作製が認められました。作製に向けて現在はどのような状況にありますか。 |
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「中辻」 実際にES細胞株の樹立を行うための準備は整っています。今年4月に京都大学再生医科学研究所に幹細胞医学研究センターが発足して、助教授一人の研究室が三つできています。そのうち、サルのES細胞を中心に研究に取り組んでいる助教授の研究室がヒトES細胞を作製して分配する中心になります。同時に再生研の隣に本格的なクリーンルームと培養室を備えた5階建ての建物ができました。そこは少なくとも手術室と同じくらいのクリーン度を保っており、出入りの管理も指紋照合で管理されて厳しいチェックがかかるようになっています。
そういうことでいつでも作製できる準備は整っているのですが、問題はES細胞を作成するために必要なヒトの凍結胚の提供者が現れるかどうかがまったくわからない状況なのです。提供医療機関としては京大病院と豊橋市民病院が決まっており、その2病院について、説明して提供していただけるかどうかを尋ねることのできる候補者を選んでいる段階です。
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候補者というのは、不妊治療をされたご夫婦のうち、子供ができて、もう不妊治療を続ける必要はないということで、保存されている凍結された胚を使わないという方々のことです。不妊治療では女性から卵子を多めに採取し、それを体外受精してうまく受精卵ができればそのうちの2、3個を子宮に入れて妊娠するかどうかを見ていきます。その時、子宮に入れなかった残りの受精卵は凍結保存して、もし妊娠できなかった時にはまた解凍して使うことになります。一方で、子供ができたので、もうその凍結胚を使うことがないという場合も生じてきます。そのような凍結胚は消滅することになるわけで、その数は日本で年間、五千個ぐらいあるといわれています。
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そのような凍結胚を研究に使わせていただこうと考えているわけです。もし、候補者が見つかれば次のステップに入っていきます。日本の「ヒトES細胞の指針」は非常に厳しくできており、本当に自発的な意思に基づいて提供してもらうという過程を重視していますので、そのような雰囲気の中では私も非常に慎重にやっています。時間は多少かかるかもしれないけれど間違ったことをして非難をされるようなことは絶対に避けるというつもりでやっております。
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「聞き手」−提供者の理解がどれだけ得られるかということなのでしょうか。 |
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「中辻」 具体的に考えてみるとその過程というのは非常に大変で、本当に提供者が現れるかどうか不安もあります。例えば、不妊治療をされた方は、不妊治療を受けたことそのものを隠しておきたいと思われる方もおられるでしょうし、説明を聞いていただくといってもその時は夫婦お二人で出かけて説明を聞かないといけないわけです。しかも無償で提供してもらうわけですから、そのために時間をわざわざ割いていただけるかということです。自分個人の利益でなく、再生医学の進歩のためという社会全体への貢献を考えて提供しようという意識を持ってくださる方がどれだけいるかということだと思います。そういう方がどれだけおられるのか私には予測がつきません。
これは骨髄ドナーなどと似たような状況なのでしょうけれど、ボランティア精神ということの上に、さらに理解しにくいES細胞ということもあります(基礎知識「ES細胞とは」)。今、何が不安かといえば提供者が現れるかということです。
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「聞き手」−昨年9月に文部科学省から出された「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」についてはどのようなとらえ方をされていますか。
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「中辻」 日本の指針はヒト胚の研究をすべて禁止しているドイツよりも緩くて、核移植によるクローン胚の作成を認めているイギリスよりは厳しいということで妥当な線だと思います
(ヒト胚性幹細胞を巡る各国の動き)。カナダやオーストラリア、フランスでも今後、日本と似たような状況になるのではないでしょうか。ただ、提供候補者に対して説明に当たる人は、樹立機関の職員ということなのですが、樹立責任者はやってはいけないということになったことについては疑問を覚えます。樹立責任者は作成することに思い入れが強いからということでだめになったようです。樹立責任者は、まさに私なのですが、説明というのは慎重さが要求されますし、本当に理解してくれているかどうかという見極めもしないといけません。それを直接知ることができないというのはジレンマを感じます。あとになって提供者からそんなつもりはなかったといわれても困るわけでその時に責任の大きな部分を引き受けるのは私です。責任は引き受けながら肝心なところに関われないというのは私としては非常にやりにくいなという思いです。ただ、だれにとっても完全な指針はないと思うので仕方はないとは思っていますが。 |
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関連資料「ヒトES細胞の樹立の流れ」 > |
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関連資料「ヒトES細胞の使用の流れ」 > |
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「聞き手」−今後、作るまでのスケジュールはどうなりそうですか。
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「中辻」 凍結胚を提供することについて説明を聞いてもいいという人がもし6月に現れたとしても、実際に取りかかるのは7月以降になります。当初は年内には樹立をして特性解析を行い、来年のできるだけ早い2月くらいには分配をと考えていましたが、それより数カ月は少なくとも遅れるかもしれません。
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「聞き手」−提供者が現れればあとはスムーズに作るところまで行くものなのですか。 |
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「中辻」 提供しますという方がいれば、1カ月間の撤回可能期間が設けられています。それから凍結胚をこちらに運んできて始めることになるわけですが、培養細胞は最初はどうしても不安定なものです。だんだん選びながら安定化していくことが必要で細胞株として安定するのに3カ月から6カ月ほどかかります。凍結した胚を融解して胚盤胞にまで成長する率は2、3割ほどです。そこからES細胞を作製するわけですから、10の凍結胚で1株樹立できるかなというところです。ですから最低限数十個の受精卵が必要だと思います。
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「聞き手」−ES細胞の作製を決意されるのは非常に大変なことだったと思いますが。 |
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「中辻」 実際に作製の準備を進めているのは私のところだけです。というのもヒトES細胞の作成は先ほども述べたように非常に責任の伴う仕事です。幸い、京大再生研の周囲の研究者も協力してくださるということで多くの理解と支援をもらって初めてできることだと思います。これは日本でだれかがやらないといけません。国内を見渡せば自分自身が一番この分野における経験がありますしその役割は私かなと考えました。研究者としては論文を書くことも大事ですが、このようなことで社会の役に立つという意義があると思います。
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