「聞き手」−ヒトES細胞の現実の医療応用について教えてください。
「中辻」 パーキンソン病の治療は近い将来、現実になってくるでしょう。なぜかというと、治療に必要なドーパミンを作り出す細胞を分化させる研究が進んでいるということが挙げられます。通常の神経細胞のようにネットワークを作らなくてはいけないとなると難しいのですが、ドーパミンの場合、ドーパミンを作る細胞が存在すれば治療に十分効果があるということも理由です。しかし、それ以外に大きいのは、脳内が免疫拒絶を受けにくい場所だからです。ヒトES細胞を治療に持って行くためには、異なる個体間での移植に伴って生じる免疫拒絶をどう抑えるかという大きな問題があるからです。

パーキンソン病への治療応用については5年ほどで臨床試験が始まるのではないでしょうか。京大再生研、理研の笹井先生が私どもと共同でカニクイザルのES細胞からドーパミン細胞を作る研究を成功させていますが、これから、脳外科の方々と共同でパーキンソンモデルのカニクイザルに移植実験を始めるところです。これはアロ(同種異系統間)移植で、まったくヒトと同じモデル実験となります。カニクイザルでうまくいけば、患者さんへの臨床試験が始まるでしょう。

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 糖尿病の治療に必要なインシュリン産生細胞は、細胞さえ作ることができればいいのでこれも近いうちに治療につながると思います。インシュリン産生細胞はまだ確実にはできてないと思いますが、血糖値に反応してインシュリン量を調整するような細胞が作れるようになればあとは比較的簡単です。例えば免疫拒絶を受けにくいように半透膜のカプセルに入れることによってパッケージにすれば簡便な形で使えるはずです。血糖値に反応してインシュリンを出してくれればいいわけで、埋め込む場所もすい臓である必要はなく血管が多ければ皮下でも構わないわけです。それを定期的に取り替えることも可能でしょう。
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   さまざまな細胞に分化させることはできても、せき髄損傷の治療やアルツハイマーの治療になると、神経繊維がネットワーク化してつながっていかないといけないのでその研究を進めなければなりません。心筋細胞なども研究が進んでいるのですが、これは免疫拒絶の問題を解決しなければなりません。
   
「聞き手」−ヒトES細胞から目的の細胞へ誘導して変化させていく研究はかなり進んでいるのでしょうか。
「中辻」 それは細胞によって違います。ドーパミンを作る細胞に関してはほぼ確立しています。遅かれ早かれ世界中でこのような研究は進んでいくでしょう。ところで、1年後にはたぶん今までよりも数十倍もしくは百倍くらいの数の研究室がこうした研究に乗り出してくるであろうということです。今、世界中でヒトES細胞を使って研究をしているところは最も研究が進んでいる米国のジェロン社などを含め20カ所くらいではないでしょうか。それが一気に増えていくことになると思います。ですから、これからの数年間というのは非常に重要です。
  国内でもヒトES細胞株を作って多くの研究者にできるだけ早い時期に使ってもらえるようになることは非常に重要です。日本で現在、マウスES細胞を使って優れた研究をしているところが数十研究室あると思いますが、その人たちがサルやヒトES細胞を使えれば新しい研究が発展するし、科学と医療の発展をもたらします。