アメリカでは幹細胞研究、特にヒトの胚幹細胞を用いた研究に国費を使うことの是非について、胚幹細胞は人の生命の萌芽であるとの観点から議論が沸き起こり、最終的にはブッシュ大統領が2001年8月に全米向けテレビ演説で国の方針を表明しました(→ブッシュ大統領の幹細胞研究に関する見解表明演説)。  
   
   それは、新たなヒト胚幹細胞の作製やそれを対象とした研究には国費(=連邦政府の研究補助金)を投ずることはできないが、主に民間機関での研究により既に生み出されている60種類余りの現存の幹細胞株を利用して行われる研究については国費による研究補助を認めるというものでした。妥協の選択といえないこともありませんが、ある意味では現実的な選択です。いずれにしても、これは幹細胞研究に連邦政府が研究費を出すかどうかの問題で、民間企業が自前の資金で行う場合や州政府の予算の使い方に関しては、当然のことながらこのような連邦政府の方針が適用されません。つまり州や個人の資金を、新たなヒト胚幹細胞株やクローン胚の作製・研究に用いることは禁止されていません。  
   
   従って、アドバンスト・セル・テクノロジー(ATC)社のようなバイオベンチャー企業はヒトのクローン胚作製に精力的に取り組んでいます(→米バイオ企業ATC社、人のクローン胚作製に成功か?)。そこでこの問題に対する各州の対応が注目されていたのですが、Science誌9月27日号のNews欄が、「幹細胞研究: カリフォルニア州がゴーサイン」と題して、カリフォルニア州のデービス知事がヒト胚幹細胞株を作製することや研究および治療目的でいわゆる核移植法によってクローン胚を作製することをアメリカで初めて認めた州法に9月22日に署名したと報じています。  
   
   かつての西のフロンティアであったカリフォルニア州はアメリカで最も先進的な州で、研究に限らずいろんな面で常に新しい取り組み、試みに挑戦することで知られており、時に東海岸のワシントンDCにある連邦政府とは異なる路線や場合によってはこれと対立する政策をあえて選択することがあります(例えば、Scienceの記事によれば、カリフォルニア州立大学機構のハットナー副学長は、幹細胞研究に関する連邦政府レベルの議論は、幹細胞研究に「非常におぞましい影響」をあたえていると発言しています)。カリフォルニア州の先例がやがては全米の他の州に「伝染」していくともいわれます。その意味でカリフォルニア州の動きが注目されるのですが、こと幹細胞研究についても連邦政府の政策とは明らかに異なる路線を選択したようです。  
   
   Scienceの記事では問題の法律を"the nuclear transfer bill(核移植法)"と呼んでいるのですが、ここでは仮に「幹細胞研究促進法」と呼ぶことにします。この法律の立案には幹細胞研究者であるスタンフォード大学のアービン・ワイスマン教授が協力しており、基本的な点は、「ヒト胚幹細胞、ヒト胚生殖細胞、成体幹細胞(体細胞の核移植によるものを含めてその出所を問わない)の作製および利用を伴う研究を特別の公共審査委員会による規制の下で認める」というもので、付随的に「不妊治療医に対して患者に胚を研究目的に提供することができることを伝える」こと求めており、これにより間接的効果として研究目的に提供される胚が増えることが期待されています。クローン人間を誕生させることを目的とするいわゆる「生殖クローン研究」はカリフォルニア州では暫定的に禁止されていましたが、デービス知事は今回、これを永久に禁止する別の法律にも署名しました。  
   
   法案作成に関与したワイスマン教授は、幹細胞研究促進法の発効により「州の予算を幹細胞研究に振り向け、研究者をカリフォルニア州に呼び寄せる点で"非常に大きな効果が期待できる"」と述べています。さらに同教授は、この法律の最大の特色は核移植法の研究を認めたことであると述べています。核移植法が鍵となる研究分野は多岐にわたっているにもかかわらず、これまでは「怖がって誰も核移植研究に取り組まなかった」。例えば、多くの研究者が遺伝性の病気をわずらっている人の体細胞の核を利用して新しい細胞株を作製するとともに、これを他の研究者にも提供したいと思っているが、「新しい法律の下では、それがカリフォルニア州で可能となるのだ」とワイスマン教授は強調しています。  
 
   幹細胞研究促進法自体は、幹細胞研究に対する新たな研究助成の制度を定めたものではありませんが、この法律の成立によって幹細胞研究の重要性が認識され、州の既存の研究資金がこの分野の研究にもまわされることは十分に予想される、と記事は締めくくっています。  
 
   
 
 
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