最近、日本では高校・大学生の理科離れが問題視され、その原因や対策についていろいろ議論されていますが、生徒の理科離れ現象は何も日本に限ったことではないらしく、Nature誌8月15日号のnews(pp714)が、ドイツでの生徒の理科離れを防ぐためのユニークな試みを伝えています。その内容をかいつまんで紹介します。  
 
   記事のタイトルは、「生徒を理科に引き寄せるための研究所内授業」で、ドイツ北西部の港町ブレーマーハーフェン(Bremerhaven)の高校生(16〜18歳)が、これまでと違う新学年を迎えたと切り出しています。高校名は明記されていませんが、この高校生22名は、毎週火曜と木曜には学校の教室を離れて、ワッデン海(Waddenzee)の海岸沿いにあるアルフレッド・ベーゲナー国立極地・海洋研究所(Alfred Wegener Institute of Polar and Marine Reseach)の研究室と階段教室で特別授業を受けます。ワッデン海はヨーロッパ最大の海沿いの湿地帯(干潟)で、潮位が上がると海水に沈み、下がると乾燥地になります。  
   
   具体的には、生徒たちは研究所内で理科系の学科である生物、化学、物理、数学および英語の授業を受けます(やはり英語なのです!)。ただし、その授業方法は学校での授業とは全く異なっています。特に理系科目は、理論を学ぶ理論授業と実践を学ぶ実験授業に分かれ、これらを相互に関連づけながら授業が展開されます。  
   
   教えるのは高校の理科の先生と研究所の研究者で、(学ぶ生徒と教える先生の興にまかせて?)、授業は1日中連続して続きます。普通の高校のように始業と終業を知らせるベルは鳴りません。また、定められた授業の予定表もありません。生徒たちは今後3年間、研究室の仕事を手伝ったり、ワッデン海の湿地帯で自ら現地調査などを行いながら科学実験の原理・原則や実験器具の扱い方を学びます。  
   
   アルフレッド・ベーゲナー国立極地・海洋研究所でのこの理論・実験授業は、高校や大学で科学を選択する学生数の減少に歯止めをかけようとする数々の試みの中でも最も意欲的なものであると記事は伝えています。ドイツでは一部の大学や研究所で、主に高校生向けに科学への興味・関心を駆り立てるための特別授業や実習が行われているそうですが、アルフレッド・ベーゲナー国立極地・海洋研究所におけるように高校生の理科教育を研究所の日常の研究活動に組み入れる試みは、ドイツ国内では初めてで注目されています。  
   
   研究所での授業では、例えば、生徒は地球科学に関する研究の基礎的なテクニックである水の標本中にさまざまな物質が存在することを調べる方法を学び、これを自分たちの初めての研究計画であるワッデン海の生態系の研究に実地に応用します。  
   
   アルフレッド・ベーゲナー国立極地・海洋研究所の研究者たちは、この研究所内授業を最大限に支援すると約束しています。同研究所のある海洋学研究者は、「生徒が専門分野の数学や科学の基本的な道具(ツール)の扱い方さえマスターすれば、研究所の研究活動に参加してもらう方法はいろいろあります」と述べています。  
   
   似たような試みがデンマークや米国でも行われているとnewsは伝えています。ドイツ国内の国立研究所をたばねるヘルツモルツ協会の会長は、「アルフレッド・ベーゲナー国立極地・海洋研究所での研究所内授業に似たものを、協会傘下のすべての研究所で立ち上げる」と述べ、ドイツ北西部の港町ブレーマーハーフェンで始まった試みを全国に広げて行く意向のようです。