●演説の要点:
 アメリカでは幹細胞研究の是非、特に人の胚から取り出される胚幹細胞(「胚性幹細胞」とも呼ばれる)を使った研究の是非について論争が続き、その延長線上で、この研究に公的資金=国の税金をつぎ込むべきか否かについても賛否両論が湧きあがっていました。
 
   
   この問題について政府の方針を表明するために、ブッシュ大統領が、2001年8月9日夜に故郷のテキサス州クローフォードから全米に向けて初めてのTV演説を行いました。ここには演説の英語テキスト全文と日本語訳全文が併せて掲載してあります。  
   
   大統領は、幹細胞研究の医学上の将来性に照らして、現在国内の研究機関に存在する60種類余りの幹細胞株を使って行われる研究に限って連邦政府の資金援助を行うとの決定を下したことをこの演説で国民に報告しました。  
 
  ●演説の解説(数字は原文中のパラグラフを示しています):
 幹細胞研究では、精子と卵子が受精してできる胚(ハイ)から幹細胞を取り出して利用しますが、研究に必要なのは幹細胞であるので、これを取り出した後の壊れた胚は破棄されます。
 
   
   本来、胚は子宮の内部で生まれ、何週間もかけて胎児に成長して行きます。ところが、不妊治療では体外受精、すなわち試験管や培養皿の中で精子と卵子を人工的に受精させて胚を作り出し、それを母親の胎内に戻します。子宮に戻されるのは2、3個ですが、万一に備えてそれ以上の数の胚を作り出すのが普通で、これは「余剰胚」と呼ばれます。  
   
   余った胚は不用となるので、破棄されるか冷凍保存されます。民間の研究機関では、この冷凍保存されている胚の提供を受けて幹細胞を取り出し、研究用に増殖させて育ててきました。これを幹細胞株と呼び、現在ではそのような幹細胞株が60種以上存在すると言われています 。  
   
   幹細胞研究に倫理上、道徳上の疑問が投げかけられるのは、たとえ体外受精という手続きによるとしても精子と卵子を受精させてできた胚は、成長して何週間後には胎児となり、さらに何カ月後には赤ん坊としてこの世に産声を上げる可能性を秘めているからです。つまり胚は既に生命の始まり、ないしは源と考えることもできます。それを研究目的のために壊してしまうのは、生命の源を破壊することではないのかという倫理上の疑問が出てくる余地があります。  
   
   また当然のこととして、そのような倫理上の疑念のある研究に税金という公的資金を補助金として提供してよいのかという問題も出てきます。  
   
  幹細胞研究に対する賛否両論
 反対論の基本的な主張は、上に述べたように精子と卵子の受精により生まれた胚は既に生命の始まりであり、生命そのものであって、これを研究目的のために破壊することは許されないというものです。
 
 
   研究擁護論は、胚は生命への可能性を秘めてはいるが、自らの力で成長することができない--子宮で着床してはじめて成長できる--ので、生命とは言えず、単なる細胞の集まりに過ぎないと反論します。これが基本点です。  
   
   そこで、ブッシュ大統領は、さらに1歩進んで、現在研究所で冷凍保存されている余剰胚に的を絞り、それらがいずれ死滅したり破棄されるのであれば、人の生命を救うという高い目的に奉仕する科学研究のために利用することは許されるのではないかと問いかけます。研究擁護論は、もちろんその通りと答えます。反対論は、生命の源を実験に使ったり、他の目的に利用すること自体が正当化できないと反論します。  
   
   しかし、ブッシュ大統領は、民間機関での研究により生み出された60種類余りの幹細胞株は、既に破棄されている胚から作り出されたものであり、その生死の決定は既に済んでいるとの理由で、この現存する細胞株を使用して行われる研究については連邦政府の資金援助を認めるべきであると結論付けています。  
   
   さらに、倫理上の問題の伴う幹細胞研究全体を掌握し、必要な勧告や提案を行うための機関として大統領直属の諮問委員会を設置すると述べています。この委員会には、著名な科学者、医師、弁護士の他に、倫理学者や神学者の参加が予定されています。「この問題は教会の中でも議論されており、教派の異なる人々が異なる結論に到達するだけではなく、同じ教派の中でさえも多くの人々が異なる結論に達しているという事情からしても当然のことですが、このあたりが日本とは事情が異なる点です。  
 
 
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