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表皮幹細胞の新たなマーカー
人体最大の臓器 -皮膚- は、表皮・真皮・皮下組織に大別されます。表皮の表面では、細胞が絶えず角質となってはがれ、表皮の一番内側の層(基底層)では新たに細胞が作られていきます。この表皮の新生から離脱までのサイクルは、マウスで約一週間、ヒトで約二ヶ月くらいです。表皮の一番内側で新たな細胞を作るのが、表皮の幹細胞です。
通常、表皮の大部分(95%)は、ケラチノサイトという細胞からできています。これらは表皮の一番内側にある基底層で生産されています。そこには分裂している細胞がたくさん見られますが、面白いことに、ほとんど分裂しない未熟な細胞も見ることができます。実は、これが幹細胞で(ここではそう呼びます)、子孫(細胞)を残す力は最大だとわかっています。
以前から、幹細胞が表皮の乳頭間隆起の先端にあるということはわかっていました。しかし、そこにあるすべての細胞が幹細胞というわけではなく、既に分化した細胞や、幹細胞と分化した細胞の中間の性質をもつ細胞など、いろいろな細胞も一緒に存在します。そのため今までは、幹細胞だけを選びだして治療に使うことが非常に困難でした。
今回、イギリスのホン・ワンさんたちのグループは、表皮幹細胞を他の細胞から分離・精製する画期的な方法を考案しました。彼らは、表皮幹細胞ではある種のタンパク質の発現が少ないことを発見し、それを幹細胞かどうかを見分ける基準にしました。このような目印となるタンパク質を、マーカーといいます。
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デスモソーム
ホン・ワンさんたちが着目したのは、細胞と細胞をつなぐデスモソームという構造です。デスモソームは、ケラチンとそれに付着する円盤形のタンパク質、およびカドヘリンからなり、細胞外に突き出たカドヘリンは細胞同士をつなげています。デスモソームは引っぱりに強く、表皮など外界と接する丈夫な上皮にとくに多く見られます。また、以前から、デスモソームの数が、ケラチノサイトが表皮の表面に移動していく過程で増えることも観察されていました。
そこで、ホン・ワンさんたちは、デスモソームを形成するカドヘリンのデスモグレイン(具体的にはDsg3)や円盤形の付着タンパク(デスモプラキンなど)の発現の強弱が、細胞が幹細胞であるか否かに関係しているのではないかと考えました。
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ホン・ワンさんたちが行った実験の大まかな内容は次のようなものです。
まず、基底層の乳頭間隆起から細胞の塊をとり、これを特殊な薬品によってバラバラにします。そこにデスモソーム中のタンパク質(具体的には、カドヘリンのDsg3)に結合する抗体を加え、細胞をセル・ソーターという機械で分離します。細胞は、蛍光発色の強弱によって分けられます。ホン・ワンさんたちは、このようにしてDsg3の発現が強い細胞と弱い細胞を分離した後、さらにそれぞれがどれだけ多くの子孫を作れるかについて試験管内で調べました。
結果は、Dsg3の発現が弱い細胞の方が、より効率的に大きなコロニーを作り、生存を続けるというものでした。これらの細胞は、「効率的に大きなコロニーを作り、長生きする」という幹細胞の要件を満たしています。表皮の幹細胞である可能性が高いのです。
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ポジティブ・マーカーとネガティブ・マーカーの組合せ
従来、表皮幹細胞のマーカーには、β1インテグリンというタンパク質がよく利用されてきました。β1インテグリンは、細胞と細胞外の基底膜とを結ぶタンパク質で(デスモソームは細胞間の結合)、表皮幹細胞のポジティブ・マーカーとなります。
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「ポジティブ」とあるのは、β1インテグリンが多いほど、その細胞が幹細胞である確率が高いからです。反対に、今回ホン・ワンさんたちが着目したデスモソーム中のカドヘリンのDsg3は、ネガティブ・マーカーです。この場合、Dsg3の濃度が低いほど、幹細胞である確率は高くなります。
先述のように、従来はβ1インテグリンが表皮幹細胞のポジティブ・マーカーとして使われていましたが完璧ではありませんでした。分離した細胞に幹細胞以外の細胞も含まれてしまうからです。しかし、β1インテグリンをポジティブ・マーカー、Dsg3をネガティブマーカーとして、二つのマーカーを組み合わせて幹細胞の分離・精製を行えば、ほぼ完璧に幹細胞の分離が行えることがわかりました。また、ホン・ワンさんたちは、単独でも、Dsg3の方がβ1インテグリンより強力なマーカーとなりうるだろうと述べています(しかし、これについてはもう少し実験データを集める必要があるようです)。
「私たちの発見は、表皮の成体幹細胞を精製する画期的な手法を提供する。そして、この手法は、幹細胞やデスモソーム研究のさらなる発展へとつながるだろう。また、ケラチノサイト幹細胞を利用した臨床治療の発展にも大きな意味を持つだろう」と、ホン・ワンさんたちは述べています。
この発見が直ちに新しい皮膚移植法につながるわけではありませんが、純粋な幹細胞を分離する方法の開発はこの分野の研究の中心課題です。純粋な幹細胞が得られ、この細胞の性質を詳しく知ることができれば、ケラチノサイトの生産を調節するメカニズムについての研究が進むのではと期待されています。 |
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Links for this article
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S.M. Janes et al., "Epidermal stem cells,"
Journal of Pathology, 197:479-491, July 2002.
[PubMed Abstract] |
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H. Wan et al., "Desmosomes exhibit site-specific
features in human palm skin," Experimental Dermatology,
12:378-388, August 2003.
[PubMed Abstract] |
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P.H. Jones et al., "Stem cell patterning
and fate in human epidermis," Cell, 80:83-93, January
13, 1995.
[PubMed Abstract] |
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