再生医療が21世紀の医療として脚光を浴びている。ES細胞を利用してさまざまな細胞を作ろうとしているのだが、好きな細胞を自由自在に作ることができないという問題がある。プラナリアは全長1センチから2センチほどの扁形動物で、全身に全能性の幹細胞、万能細胞を持っており、その幹細胞を100%上手に利用することによってどこで切られても再生できる能力を獲得している。我々はプラナリアに万能細胞の扱い方を学べるのではないかということで研究をしている。

 プラナリアの特徴は第1に切っても切ってもプラナリアになることである。2番目は切れて増える。3番目はエサをあげなくても死なない。4番目は有性化して卵で増えることも可能であるということだ。プラナリアの再生を観察してみる。頭を切ると、頭の断片の後ろ側に再生芽ができて失った部分ができてもとのかたちに戻る。しっぽを切ると、しっぽは前側に再生芽ができてもとのかたちに戻る。高校の教科書には、切ったときに未分化の万能細胞が切断面に集まり増殖して再生芽となり、再生芽で失った組織を作ると記述されているが、我々の研究でこれはうそであるということがわかった。

 プラナリアは頭と首と咽頭と尾の四つの部分でできている。首から上を切って頭の断片からどうやって再生するかをみてみると、将来首になる粘液の細胞は再生芽からできてくるわけではなくて、目もとの脳のあった部分の周りにいる万能細胞が首の粘液の細胞になっている。観察から導けることは、再生芽は失われた細胞を作る場ではないということと、万能細胞は体の領域に合った細胞になるように分化するということである。

 再生芽はどのような役割を果たすのか。これを理解するには1970年代に解明されたゴキブリの肢の再生の原理が極めて重要である。細胞は個々の番地もしくは位置情報がつけられていて異なる位置の細胞が接するとその間を補うように細胞が反応するというものだ。これをインターカレーションという。
この発想を使ってプラナリアの再生芽の役割を考えてみると、頭の後ろ側にできる再生芽は1番後ろ側としての位置情報を持ち、もとの頭だった部分にいきなりしっぽができる。そこで頭としっぽの間でインターカレーションを起こして首と咽頭部分ができる。一方、前側にできる再生芽は1番前の頭になる位置情報を持ち、頭側にできる再生芽ともともとの細胞との間でインターカレーションを起こす。これにより新しい領域が再編成され、残っている断片にある万能細胞が新しい領域性に反応して細胞を作り頭、首、咽頭、しっぽという四つの領域を再現する。

こう考えると、どこを切っても個体になるというすべての現象を説明できる。再生芽ができてインターカレーションを起こすことによって、万能細胞は新しい座標に反応して必要な細胞を作る。プラナリアが万能細胞を制御するシステムは座標軸を作るシステムに反応するということが結論づけられる。

 ES細胞は何にでもなれる細胞だが、大人のマウスに移植しても奇形腫を作ってしまい何の役にも立たない。しかし正常発生をしているマウスの初期胚に移植すると正常発生に参加し、組み込まれた細胞の運命に従って心臓や生殖細胞になっていく。この違いは何かというと、初期胚は座標軸を作っている時期であるからだと考えられる。脊椎(せきつい)動物といえどもこの時期はプラナリアと同じである。この時期にマウスのES細胞を入れると位置情報に従った正常発生に参加することがわかる。いったん位置情報を固定してしまうとマウスのES細胞を移植しても奇形腫ができてしまう。これらの結果から、万能細胞は体の座標を作る位置情報システムに反応するようにできているらしいということ、全能性の幹細胞を操作して自分たちの作りたい細胞を作るためには正常発生して体の座標軸を作る分子システムを理解することが不可欠であることがわかる。


理研 発生・再生科学総合研究センター 進化再生研究チーム