動物の体の格好が一つの受精卵からどのように造られるのか、進化の過程でどう変わることでそれぞれの動物がどのように形を造っていくかについてお話しをしたい。
デボン紀には魚類が海や川で栄えて、地球が湿地みたいな状態であった石炭紀には両生類、は虫類が進出して、隕石の衝突によって恐竜が滅びた白亜紀という時代を経て、脊椎動物は進化してきた。その過程でほとんどの動物は共通の祖先から分かれて変わってきて生まれてきた。それがダーウィンの考えた動物の進化の姿だ。生まれた時というのは、ほ乳類はは虫類が栄えるはるか前には虫類から分かれているし、は虫類も両生類から登場したごく初期に分かれている。新しい動物が生まれるのはかなり最初の時期に系統分岐が起こっている。
進化していろいろな動物が生まれてくる時には発生の極めて最初の過程に手を入れることで新しい動物を生み出す。発生学の父といわれるフォンベアは、脊椎動物では卵からの発生が動物ごとに極めて異なるが、発生の一時期である咽頭胚期はすべての動物において区別できないほどに極めて似ているということを喝破した。脊椎動物の体を見て体の造り、ボディプランがどうなっているかを最初にまともに考察した人はドイツの詩人でもあるゲーテだ。彼は脊椎動物の体にはある一つの単位があってそれが前後に繰り返し、なおかつこの繰り返しが前後で少しずつ変形することでできていると考えた。変形の仕方をいろいろ変えていけば魚からほ乳動物に至るまでのすべての動物がどう変わるかを説明できるといっている。この考え方は動物の体造りを考える形態学者にとって今でも基本となるものの見方である。
脊椎動物はいったいどのように生まれてきたのだろうか、共通の祖先は何だろうか、ということが我々の最も知りたいことだ。脊椎動物はナメクジウオのような頭索動物やホヤのような尾索動物と共通の祖先を持っていたといわれている。脊索とともに体節的な分節性を持っている、えらがあるなどの共通点がある。ただ後口動物や棘皮動物ほどになると我々とどういう共通の体の造りがあるかを想像することは困難で、現在の分子発生学をもっても難しい。
ただ、最近の遺伝子の比較による分子進化学の進展によって、すべての現存する体腔動物は共通の先祖から生まれてきたということがわかってきた。最初に分かれてきた動物は固着生活をするイソギンチャクなどの腔腸動物だ。次に動いてエサを求める動物の先祖であるバイラテリアが出てきた。バイラテリアは胞胚から落ち込む原腔が将来の口になるか肛門になるかで二つの道筋に分かれて進化したことがわかっている。原腔が将来の肛門になって二次的に口ができる後口動物と、肛門が二次的にできる先口動物だ。
門レベルでの進化がどのように起こってきたかを化石発掘の結果から考えると、現存するすべての動物は約5億5000万年前、カンブリアの海で生まれた動物たちの子孫であると考えられる。そして最近の遺伝子レベルの知見によって、分岐してからそれぞれの動物がどれくらい離れているかが類推できるようになり、少なくともカンブリアより3億年前にはバイラテリア、動いてエサを求める動物の先祖系が生まれてきたという説が出されている。
もう一つ最近出てきた重要な知見がある。脊椎動物を造るにはかなりの数の遺伝子が必要で特別な存在だと思われていたのが、ヒトゲノムの解析の結果、単細胞の動物を含めてすべての動物はほぼ同じくらいの数、構成の遺伝子を持ち、それをどう使うかの違いでさまざまな動物が生みだされているということだ。1986年に「The fly」という映画が公開された。主人公は物体を分子のレベルにまで分解し、分子を組み合わせ直す原理の物体移動装置を発明した。主人公自身が人間の移動実験を試みるが、1匹のハエが装置に入っていたためハエと人間を融合させた生き物ができてしまうストーリーだった。基本的な遺伝子のメカニズムはショウジョウバエも我々も同じということを考えると、この人とハエの融合動物ができるという話はまったく納得のいく面がある。
しかし問題がある。先口動物と後口動物では背腹が逆転しているということだ。背腹を決める方法はまったく同じ遺伝子のカスケードによって決まるのだが、体の造り方には違いがある。これを解明しないと融合は不可能だ。だがその解明も間近だ。
理研のセンターでは生物の発生の過程を進化的な視点から研究しようとするEvo−Devoの研究に力を注いでいきたい。我々の体が進化的なものも含めてどうできているかを知ることが新しい21世紀の医学を作ることにとって重要な貢献になると思う。
理研 発生・再生科学総合研究センター ボディプラン研究グループ