動物の模様は非常に雑多なようだが、縞模様、斑点模様、網目模様といったいくつかのグループに分けることができる。これらは一見違うように見えても共通の特徴として等間隔性があるということを心に留めておいてほしい。この模様がどのようにできているかを考えると非常に不思議なことがある。一つは系統的に近縁の動物は体の構造も似ているが、模様に関してはそれが当てはまらないということだ。また、色素細胞のモザイクによって模様は決まってくるが、模様をつくるための情報、指示は一体どこから得ているのであろうかという疑問も湧いてくる。体の表面にできる模様は体の内部構造とは無関係なので、模様は皮膚の上で勝手にできあがらないといけない。皮膚は自分自身で位置情報をとらないといけないということだ。

 イギリスの数学者、アラン・チューリングは動物にできる模様はなんらかの波ではないかと唱えた。彼は簡単な化学反応を組み合わせるだけで空間に安定な繰り返し構造を作ることができるということを数学的に証明して、それが動物の体の繰り返し構造や皮膚の模様を作っているであろうと考えたのだ。
 彼の考えた波を生む反応系というのは非常に簡単なもので、過剰な基質があって一つの赤い分子があるとすると、そこから二つの赤い分子と一つの青い分子ができるというものだ。赤い分子はどんどん増えていくが青い分子がある濃度に達すると反応を抑制する方向に働く。これによって赤い分子が増えたり減ったりという反応が繰り返していく。
この反応を試験管の中で行うと振動現象、濃度的な振動が起きる。そこへ拡散という条件を加えると時間的な振動が空間的な波に変わる。例えば赤い分子のほうが青い分子よりも速く拡散すると、回転して広がる波ができる。つまりチューリングは最初に波のパターンをつくるような位置情報がなくても特定の化学反応が組み合わされば勝手に等間隔のパターンができあがることがあるということを数学的に証明した。チューリングはこの化学反応を微分方程式に表したのだが、この式にさまざまなパラメーターの値を当てはめると網目模様ができたり斑点になったり自由自在に変えられる。


 それでは模様が波であることはどう証明すればいいだろうか。模様を持つ魚が成長すると何が起きるかというと模様の間隔が広がってしまう。でもこれがもし波だったら等間隔を保とうとするはずなので元の間隔に戻らないといけない。戻らないのであればこれは単なる皮膚の上に書いてあるプリント模様に過ぎないということになる。そこでチューリングのモデルを使って模様の結果を出して、これと同じ変化が魚で起きるかどうかを調べたところ、複雑な斑点のできかたにおいても計算どおりに斑点の挿入や分裂などの変化が起きた。

 遺伝子の働きは化学反応式の反応係数に影響を与えるというふうに考えられる。ゼブラフィッシュで実験をすると遺伝子の突然変異はそれぞれの反応係数の値を変えることになり、その数値を変えてできる模様を計算すると実際にできる突然変異の模様とそっくりであることがわかった。チューリングの反応拡散波の理論は分子の種類に関わらず特定の関係さえ満たせば自発的な模様形成ができてくるということを言っている。

 皮膚における話をしてきたが、複雑な形を持っているドラゴンフィッシュなどでもよくよく見てみるとある特定の形の繰り返しであることがわかる。このように体の中というのは等間隔の構造に満ちている。体にはあってなおかつ卵にはないということを考えると、位置情報はどこから来るかと考えた時に、チューリングの波は形態形成の基本原理の一つではないかととらえられる。そういう考えのもとに分子レベルで波ができる原理を解明しようとしている。



理研 発生・再生科学総合研究センター 位置情報研究チーム