私たちが知りたいのは受精卵から体がどのようにしてできるのかであり、それを知ることが発生学である。私たち発生学者がこの10年、20年の間に学んだことは、世の中にはいろいろな種類の動物が存在しているが、実はどの動物も同じ原理、メカニズムで体を作っているということである。したがって人の研究をするには人の研究をしなくてもショウジョウバエの研究をすれば人のことがよくわかるということが常識になっている。


 1個の受精卵がどうやって体を作るかだが、細胞は不均等分裂、つまり違ったものに分裂していく。これを我々専門家は細胞の分化と呼んでいる。発生学者が解決したい重要な問題は、どうやって分化した細胞が違った細胞になっていくかということである。いろいろな細胞に分化するということは違ったタンパク質を合成することである。タンパク質は遺伝子からできているのであり、したがって人にもありとあらゆる植物にも動物にもある遺伝子が持っているタンパク質の情報をどうやって引き出していくかが細胞分化のメカニズムを知るきっかけになるということである。最近の研究によって、細胞は遺伝子によってタンパク質を合成し、そのタンパク質はまた別の遺伝子に働きかけていくという一連の連鎖反応が起こってこれを出発点としていろいろな細胞の遺伝子をON、OFFし分化を進めていくことがわかってきた。

 分化した細胞が体となっていくには特定の区域で特定の組織を作らないといけない。細胞分化は場所の違いに応じて特定の分化をしないといけないということだ。このメカニズムについてはショウジョウバエを調べたところ、卵の前方に頭を作るためタンパク質を作るためのメッセンジャーRNAが重要な役割を果たしていることがわかった。ただ、頭といっても目があって触覚があってと相当くわしい設計図がいるわけである。その仕組みもだんだん明らかになりつつある。例えば目を作るための遺伝子をショウジョウバエで突き止めたのだが、それはマウスの目を作る遺伝子とほとんど一緒だった。おもしろいことは我々の目と、複眼のショウジョウバエの目は全く構造が違うにも関わらずもともとの遺伝子はまったく共通であるということだ。構造に違いが生じるかはまた別の問題で、一つの目を作る遺伝子があって、マウスやハエで働くときはその先で制御する遺伝子が違うために異なってくるということもわかってきた。

 受精卵があればあとは遺伝子が順番に働いていって自動的に体の各部ができていくのではなく、細胞は発生の過程でお互いに話し合いながら全体の計画がうまく進んでいるかを調整しながら動くという仕組みがある。したがって我々の細胞の卵もお互いで調整しあう。と同時にこのようなことは再生という問題につながっていく。

 再生というのは自分の持っていた形成プログラムを止めてもう一度リプログラミングするという現象だ。これは無脊椎動物でよく起こるが脊椎動物でもある特定の動物では起こる。我々にも再生する部分があり、例えば皮膚ではステムセル(幹細胞)が再生の役割を果たす。そのステムセルは体のいろいろなところに実は存在していて、それなりに操作すればイモリのようにいろいろなところを再生できるようになるかもしれないというのが再生医療の夢である。

理研 発生・再生科学総合研究センター 高次構造形成研究チーム